昨日夕方頃から台風9号が沖縄を襲っている。
南東方向から猛烈な風が吹いてくる。

雨に濡れた手の甲をちょっと舐めてみると
海の水の味がした。
島に吹く風はやっぱり潮風なのだなと思った。


那覇には国際通りの中ほど、牧志(住所上は松尾)というところに公設市場がある。
ここでは一階の市場で買った魚を二階のお店に持っていくと調理をしてくれる。
また市場を中心に商店街が縦横無尽に拡がっていて
食料品以外の買い物も楽しめるので
観光客も必ずと言っていいほど訪れる場所だ。

その第一牧志公設市場が今、建て替えの問題に直面している。
何気なく見た公民館の掲示板に貼ってある説明会のポスターが気になった。
題して、「第一牧志公設市場再整備事業説明会」。
建築の建て替え問題に興味があり、説明会に参加してみることにした。


会場で配布された資料によると、
第一牧志公設市場 1950(昭和25)年開設、1972(昭和47)年改築。
来訪者1日あたり平均6500人 年間換算 約260万人。
これは首里城公園入園者と同等規模になるという。
周辺の商店街も併せると首里城公園よりも多くの人が来訪していることになる。

那覇市から提案された案は三つ。

① 建て替えが終了するまで市場を営業休止し事業者に補償をする方法。24億円。

② 近くの広場に仮店舗を整備し営業。建て替え終了後、仮店舗は閉鎖。35億円。

③ 近くの広場に市場を建設・移転し、現在の市場を多目的広場にする。19億円。

説明会は思っていた以上に殺伐とした雰囲気だった。
割と広めの会場の席は埋まり、テレビカメラも入っていた。
概算とは言え、どのような根拠でこういった金額が出てくるのか
説明をせよとの厳しい声が挙がった。


建築物を建て替える、あるいは街を創っていくにあたっては
押さえておかなければならないことがある。

東京 台東区谷中で不動産屋を営んでいる親父さんと話した時の言葉が頭に浮かぶ。

「古い木造住宅に憧れて入居する人は多いんだけど、
冬の寒さが堪えて一年で出て行ってしまう人も多いんだよ。
木造住宅に住んでいる人の中にも本当はマンションに移りたいって人も多い。
よそから観光に来る人は古い家が減って残念って言うけど、
家が新しくなったりマンションが建つことにも理解をしてほしい・・」

そう、自分達は気密性や利便性の高い(そのことがいいのかどうかは別にして)
家に住んでおいて、訪れる街にはノスタルジーを求める。
そんなものはよそ者のエゴである。
街は地元の人が希望した形で変わっていくべきであってそれが自然だと思う。

沖縄に置き換えてみる。
県外から来る人はわざわざ飛行機に乗って来沖してまで
おもろまち新都心やイオンモールのようなものを見たいわけではない。
しかし地元の人がそれを望むなら、また利便性を感じるならそれでいいと思う。
現におもろまち新都心の不動産価格は高い。
おもろまちや北谷の賑わいを見るとそれはそれで嬉しい。

前出の資料によると牧志公設市場の来訪者数割合は
県内客 29.9%
県外客 57.6%
外国人客 12.5%

これだけ県外客の割合が高いとなるとピカピカの新しい市場になったところで
魅力を感じる人は少ないのではないか。
そして出席している地元の方々も最初から建て替えありきの計画に
イマイチ納得していないようだった。

難しいところだ。
確かに市場の建物を見るとやはり潮風の影響もあってか
コンクリートの劣化が激しい。
この状態から修繕を続けていくのか、建て替えを選択するのか。

最後に質疑応答があった。
はじめは黙っているつもりだったが終盤になって
やはりどうしても言っておきたいことがあったので手を挙げてしまった。

はじめに県外からの移住者ということを断った上で、

① 建て替えを予定している建築の耐用年数をどれくらいで考えているのか。

少々の沈黙の後、
まあ一般的なコンクリートの耐用年数ということで、との回答だった。

② ということは日本のコンクリート建築の資産的な意味での耐用年数からすると
また4、50年でスクラップをして建て替えということになるのではないか。
これを繰り返していたのでは市場という重要な建物が
街の文化として育っていかない。

③ 特に県外客は新しいモールのような建物には価値を見出さない。
現在の市場や商店街の雰囲気に懐かしさや文化的な価値を見出している。
来訪者の比率の高さを考慮してもここは慎重にやったほうが良いと思う。

④ 現況からの修繕をし続けるコストを考えると建て替えも止むを得ないと思う。
建て替えをどうせやるなら、後に重要建築に指定されるような後世に残せる
建築にしたほうが良い。40年でスクラップにする建築と100年建築とでは
当然建設コストも変わるため、その試算を明確に出してほしい。

とげとげしい雰囲気だったので努めて穏やかにゆっくりと述べさせていただいた。

移住者ということもあり、批判があれば当然受け止めるつもりだったが、
意外にも地元の親父さんから「賛成!」と声が上がり驚いてしまった。
隣に座っていた市場のすぐそばに住んでいると仰るご婦人も、
「私もそういうことが言いたかった」と言って下さった。

・・・

僕自身も認識を改めなくてはならなかった。間違っていた。
そうは言っても、やはり市場はかなり老朽化が進んでいるし
地元の業者も絡むであろうから建て替えには多くの人が
割とすんなり賛成するのではないかと思っていたのだ。
僕は移住者ではあるものの、今は那覇市に税金を納めている市民になった。
これからも一緒に勉強させてもらおうと思う。

来年度にはコンペがあり、基本設計が上がるという。
設計図が上がって予算が決まり計画が動き始めてしまうと
建築計画の変更はなかなか難しくなる。
だから今のうちに、地元の方も移住者も県外客の方も意見を出し合い
皆でよい街を創っていければと思う。

初めて那覇を訪れた時、牧志や栄町の市場、農連市場、
国際通りから延々と続く商店街の懐かしさに感動してしまった。
そして今なお人々の息遣いが感じられるかたちでそれらが残っていることが
何よりも嬉しかった。
人に「懐かしい」と思わせることができるのは大変な文化遺産なのだと強く思う。


那覇は訪れる人に「また戻って来たい」と思わせる魅力のある街だ。
僕自身もまた、その魅力の虜になってしまった一人である。

市場の今後の動向に注目していきたい。



風太




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